はじめに
現代社会においてスマートフォンやパソコンなどのテクノロジー機器が日常的に利用され、生活のあらゆる側面に浸透しています。特に若年層や成人男性における精神健康の変化が国内外で注目されています。
ゲーム依存・ネット依存の現状
世界保健機関(WHO)は、2019年に「ゲーム障害(gaming disorder)」を国際疾病分類(ICD-11)に正式な精神疾患として認定しました。
「ゲーム障害」は、ゲーム行動のコントロールが失われ、他の生活活動よりもゲームが優先され、社会的・家庭的・学業的・職業的な機能に著しい障害が生じている状態が12か月以上続く場合に診断されます。
日本精神神経学会の調査では、対象者の38.2%が「問題的インターネット使用者(Problematic Internet Use, PIU)」に該当し、ネット依存の傾向が深刻化していることが示されています。
日本国内の調査でも、10代・20代のインターネット・スマートフォン依存の増加、それに伴う心理的ストレス、自尊感情の低下などが報告されています。
症例:男性の精神疾患の具体例
32歳男性(アルバイト)は、過度の緊張・憂うつ・発汗など、社会不安障害に特徴的な症状を呈している。対人場面、特にレジでの女性店員との接触に強い恐怖や不安を感じ、身体症状(手の発汗など)が誘発される。こうした状況の繰り返しが、日常生活に著しい支障をもたらしている。
精神疾患と脳神経機能
不安や抑うつなど精神症状の生理的基盤として、大脳辺縁系(特に扁桃体)や神経伝達物質(セロトニン、ノルアドレナリンなど)、ホルモン系(HPA軸の調節異常)が指摘されています。
精神疾患は自律神経系(交感神経・副交感神経)の機能異常とも関連することが明らかとなっており、実際に不安障害や抑うつでは自律神経の調節障害が観察されています。
テクノロジーおよび社会環境が精神疾患に与える影響
デジタル社会における心理的ストレス
スマートフォン・PC・SNSの過剰使用は、「社会的つながり」の希薄化、自分自身や他者との比較によるストレスの増大を引き起こす要因となっています。
若年人口の多くがほぼ一日中スマートフォンを携帯し、SNSへの過剰なアクセスが常態化しています。こうした行動パターンは心理的依存傾向を助長し、身体・精神の両面に悪影響を及ぼすことが指摘されています。
脳の認知パターンと精神疾患
不安や劣等感などの否定的感情を持続的に思い浮かべる傾向は、大脳辺縁系の活動異常に加え、自己評価・対人恐怖の増加と関連しています。
こうした背景には、現実とイメージの混同・過剰一般化など人間の認知特性が影響しています。
今後の見通しと対応策
テクノロジー社会の進展とともに、精神健康障碍(特に依存症・不安障害・抑うつ症)のリスクは増大することが予測されています。
精神疾患の発症や悪化に自律神経系の乱れや認知バイアスが深く関与するため、個人レベルでのセルフケアとともに、デジタル機器利用の適切なガイドラインや公的サポート体制の充実が重要となります。
心理的な症状や行動パターンに早期に気づき、医療専門職による評価・支援を受けることが、重症化の予防・回復に寄与します。
参考
テクノロジーの利用と精神健康への影響は今後さらに多様化・複雑化することが予想され、個々のケースに合わせた柔軟な対策が求められます。
WHOや日本国内の調査結果を踏まえ、社会全体で精神疾患予防・早期介入への取り組みが不可欠です。