ジャスミンのコロンと路地裏のにおい──教室のカーストものがたり
Back in the Showa era,
ある学校の教室に、リョウコとヤスエという女の子がいました。
リョウコは裕福な家の一人娘です。彼女の服はいつもきれいで、ママと一緒にバスタイムを楽しみ、風呂上がりにはジャスミンの香りのコロンをシュッと噴きかけてもらいます。
友だちも多く、明るくて自信たっぷり。リョウコの周りには、同じように裕福な女子が集まり、みんなで楽しい話をしています。
グループの中には「少しでも太ったらだめ」「匂いに気をつけて」などルールがたくさん。リョウコは毎日、きれいでいることをとても大切にしていました。
一方、ヤスエはぼろ屋が立ち並ぶ路地の家で暮らしていました。服も使い古し、汗とほこりやごみのにおいがいつも彼女の周りに漂っています。
ヤスエが給食当番の日は、誰も食べようとせず残飯が増えます。「便所が教室に置いてあるみたい」と冷たく言われてしまい、男子生徒からも毛嫌いされていました。
周囲のにおいやみすぼらしい見た目が理由で、みんなから遠く離れた席に座るヤスエ。お腹がすいてたまらず、隣の子のお弁当を盗んでしまい、ますます孤立しました。
ある日、リョウコはヤスエのお母さんが困っている場面を見ました。
「生活保護のことがわからず、ガス栓をひねって親子心中未遂を図った」――学校に悲しいニュースが届きます。
リョウコは自分とはまるで違うヤスエの人生に、心から恐怖と後悔を覚えました。「同じ人間なのに、どうしてこんなにも違うんだろう」と、泣き叫んだのです。
教室では「スクールカースト」という見えない序列がありました。
見た目や家庭環境、行動の違いで、子どもたちは無意識にグループを作ります。裕福な女子は集まり、カースト上位に。貧困な子は孤立し、いじめや悪口、そして排除運動の対象となってしまうのです。
とても痩せている女の子は「自己管理できる」「華奢でかわいい」と評価され、過食症の子は「女子力」が低く見られがち。けれども、そのどちらも心には苦しみと孤独を抱えていました。
「脂肪肥満は許されない」「清潔でいることが絶対」といったグループのルールは、だれかを傷つけることがあると、リョウコは気づきました。
リョウコは、クラス全員のお友達一人一人の目を見て「ごめんなさい」と本気で伝え、自分の行動を見つめ直します。そして、ヤスエや、苦しむ生徒たちにそっと寄り添うことを心に決めました。
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たとえ住む場所や見た目が違っても、すべての子どもに笑顔と優しさが必要だと、リョウコは教室のみんなに静かに語りかけました。
おしまい。