ひまわり幼稚園の教諭・幸絵は「さっちゃん先生」と呼ばれ、毎日色鮮やかな園舎と実家との往復ばかりの日々を過ごしていた。恋愛のチャンスもなく、年齢だけを重ねていくことに、いら立ちとあきらめでため息が漏れる。そんな幸絵の唯一の恋人は、短大時代に付き合った井上だった。彼は背が高く、ロングヘアをポニーテールにしたセンス抜群のイケメン。幸絵は彼と1年半ほど同棲していたが、不安定な将来に耐えかねて自ら別れを告げた。
その後、幸絵は井上と一切の連絡を絶ち、幼稚園での地道な生活に戻った。しかし数年後、井上はモデルのような美貌の女性と結婚し、海外勤務を経て日本に戻ってきた。彼の娘・真帆は幸絵の勤める幼稚園に途中入園し、しかも幸絵の担当する「ひよこ組」に加わることになる。そして、なぜか真帆は毎日のように「さっちゃん先生は、どうしてブスなの?」と繰り返し尋ねてくる。
その裏に何か不穏な意図があるのではと疑念を抱いたのは、幸絵の親友・加奈子の恋人であり、アマチュア探偵を名乗る“たっくん”だった。彼は、表面上は何気ない日常の中に潜む小さなほころびに気づき、静かに調査を始めた。
たっくんは、幼稚園の送り迎えの様子や、真帆の話す内容、井上と加奈子との過去のやりとりを細かく分析していくうち、井上が陰で娘にある言葉を吹き込んでいた事実を突き止める。さらに、加奈子もまた井上と過去に関係があり、幸絵への無自覚な嫉妬と復讐心から、事態に暗黙のうちに協力していたことが明らかになった。
事件の裏側を暴いたたっくんの推理によって、真相は表沙汰となった。幸絵は、真帆への激しい叱責が問題となり、自ら幼稚園を去ることとなったが、たっくんの手によって、井上と加奈子の策略が白日の下にさらされたのだった。
人の心の深い闇と、小さな誤解や嫉妬が引き起こす事件。たっくんは静かに呟いた。
「人は、見たいものしか見ようとしない。そして、その影で誰かが泣いているんだ。」