無目的の殺意は、動機や因果を追求する「推理小説」の対局に位置し、読者を不安や混乱に陥れます。
「理解できない恐怖」「知らない誰かが自分の秩序を乱す」という不安感の醸成は、現代社会の不安ともリンクします。
ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ(元判事)は、アガサ・クリスティ『そして誰もいなくなった』の中心人物であり、強い正義感とともに冷徹な裁き手として描かれています。
この「判事」キャラクターは、タロットカードの象徴で見ると「Justice(正義)」のイメージがまさに当てはまります。
タロットカード「正義(Justice)」は大アルカナで、女神が柱と柱の間に座り、裁判官の役割を担っています。左手に持つ天秤で、人々の罪や徳の重さを量り、右手に持つ剣を使い、その罪や不正を裁いているのです。時々、目隠しをしているデッキもあり、平等意識が高いことを示しています。公平さ・裁定・因果応報・責任を象徴します。
基本的な意味(正位置) 公平・公正 感情ではなく事実にもとづいた判断。偏らない視点で事を裁く態度。 因果応報 過去の行為や選択が現状に現れる。責任を問う状況。 倫理・責任 法律や道徳的規範を重視し、誠実に行動すべき時。 真実の解明 隠されていた事実や動機が明らかになる。
不公平・偏見による判断
不誠実・真実の隠蔽
無責任な態度
誤解や自己正当化
『そして誰もいなくなった』の登場人物の中で、精神的苦痛と孤独のなか死に追い込まれたヴェラ・クレイソーンを最も「悲劇的・象徴的な被害者」とみなされ、単に命を奪われた人だけでなく、「最も理不尽な犠牲」「最も深く苦しんだ人物」「最も不条理な運命を背負った人」として、「一番の被害者」と考えられます。
作中、最も長く生き残り、最後の精神的・心理的追い詰めを経験します。彼女は過去の罪への悔恨、自責と恐怖に苛まれて最期に自殺を強制されます。その意味で、「精神的な苦痛」「孤独」「救いのなさ」が最も強く描かれており、しばしば「最大の被害者」と言われます。
タロットカード「吊された男(The Hanged Man)」は大アルカナで、その図像自体が中世ヨーロッパで実際に存在した刑罰(逆さ吊り)をモチーフにしています。カードには手足を縛られ逆さに吊るされた男性が描かれ、これは実際に罪人や反逆者への刑罰として執行されていたとされています。
中世の逆さ吊り刑 ヨーロッパでは「反逆者」や重罪人に対し、片足で吊るす罰が存在しました。特に都市によっては市民たちの見せしめとして行われ、タロットの初期デザインにも“金貨袋を持つ逆さ吊りの男(反逆者ユダ)”がモチーフとされました。
「吊るされた男」のカードは、中世ヨーロッパで実際に用いられた刑罰の記憶から、現代では自己犠牲・贖罪・悟り・運命の受容を象徴するとされています。「ヴェラ・エリザベス・クレイソーン」にこのカードを当てはめることで、彼女の贖罪・耐える苦しみ・逃れられない罪といった物語性がより深く際立ちます。
『そして誰もいなくなった』終幕で、ロンドン警視庁に届けられる「壜(びん)入りの手記」は、殺人者であり"名無しの探偵"でもあるウォーグレイヴ判事自身が自らの犯罪と動機を明かしたcrime letter(犯行声明文)です。この「証拠を自ら開示した名無しの探偵」は、殺人事件に関する証明書を瓶に詰めて海に流したのです。この壜入り手記を書いた探偵―ウォーグレイヴ判事―がタロットカードで象徴されるとすれば、「隠者(The Hermit)」と「正義(Justice)」、そして「審判(Judgement)」の要素を強く帯びています。真実を孤独に追い、自ら裁きを下し、最後には世界へ“答え”を伝える――
壜入り手記そのものが、タロットにおける「真理の伝達者・裁定者・最後の審判者」の象徴と言えるでしょう。
ボトルメッセージ(漂流瓶)。海に流された瓶は、「真実」が直接伝わらず、偶然に発見された者に託される。「探究者(警察)」や「読者」がたどり着くまで時空と偶然を経ることから、“根源的な問いやミステリーの難解さ”“真実への旅”を暗示します。
「救い・希望/絶望」の二面性
ボトルメッセージは「誰かがいつか拾うかもしれない」という稀有を暗示しています。一方、海流に任せて流し去る行為は「絶望の告白」「世界との断絶」でもあります。
エヴリン・ハートリー博士は、マサチューセッツ州ケンブリッジの散らかった自宅の書斎で、天才的ながらも人目を避ける暗号解読者として紹介されます。彼女は古代のテキストの解読に取り組んでいたところ、彼女の猫のシュレーディンガーが本の山を倒し、亡くなった祖父からの隠された手紙を露わにします。その手紙には、家族の秘密と謎の遺物について言及されています。エヴリンが手紙の意味を考えた矢先、疎遠になっていた姉のサラから「デリケートな問題」に関する助けを求める電話がかかってきます。
エヴリンは渋々、ボストンの賑やかなカフェでサラと会う。明らかに緊張した様子のサラは、彼らの祖父の墓が荒らされ、不思議なシンボルが残されていたと明かす。サラはエヴリンにそのシンボルの写真を渡す。エヴリンはそれが希少な錬金術の記号だと気づく。二人がその意味について話し合っている最中、見知らぬ男が彼らのテーブルにぶつかり、コーヒーを写真にこぼす。エヴリンは男が何かをポケットにしまい込むのを見て、急いで去っていくのを見届ける。
自宅に戻ったエヴリンは、墓の冒涜と隠された手紙が関連しているという感覚を拭い去ることができなかった。彼女は調査を開始し、まず祖父の手紙の全文を解読することから始めた。暗号解読のスキルを駆使し、彼女はマサチューセッツ州の田舎にある家族の祖先の家屋の下に隠された部屋を指す一連の手がかりを発見した。エヴリンは友人であり元同僚の歴史家、マーカス・チェン博士に連絡し、調査を手伝ってもらうことにした。
エヴリンとマーカスはやがて、ハーバード大学内のオフィスで、オカルト象徴学の著名な専門家であるアメリア・ブラックウッド教授を訪ねる。アメリアは、錬金術の象徴とその秘密結社「永遠の炎の秩序」との関連性について解説する。彼女は、この調査を続ける危険性を警告しつつも、助言を申し出る。その際、彼女はかつてエヴリンの祖父の親しい友人だったことを明かす。二人がオフィスを出る際、エヴリンは後を追う車に気づく。
エヴリンとマーカスが、エヴリンの懐疑的な親友で刑事のジャック・モリソンと共に、エヴリンの自宅でサラと会う。彼らは調査結果を共有し、家族の祖先の家を訪れることに決める。旅行の計画を立てている最中、エヴリンの学問上のライバルであるヴィクター・ロス博士が突然現れ、調査に参加するよう要求する。彼は「永遠の炎の秩序」に関する重要な情報を握っていると主張する。渋々ながら、グループは彼を参加させることに同意し、不安定な同盟を結ぶ。
彼らは荒廃したハートリー邸に到着する。埃だらけの部屋を探索する中、エヴリンとマーカスはやがて、希少な錬金術の書物で埋め尽くされた隠れた図書館を発見する。一方、ジャックとサラは、祖父が思っていた以上にオーダーと深く関わっていたことを示唆する古い写真の数々を見つける。ヴィクターは一人で作業し、絵画の背後にある隠れた金庫を発見する。グループが金庫を開けるために再集結した瞬間、床板の下から不吉な軋み音が響き渡る。
床が崩れ、エヴリン、マーカス、ヴィクターを秘密の地下室に突き落とす。彼らはジャックとサラから離れてしまい、脱出する手段が見当たらない。地下室には奇妙な機械と錬金術のシンボルが散在している。出口を探し求める中、彼らは毒矢や移動する壁を含む一連の罠を起動させてしまう。ヴィクターの機転が彼らを押しつぶされる危機から救い、エヴリンは彼への当初の疑いを改める。
部屋に閉じ込められている間、ヴィクターは事件との個人的なつながりを明かす。彼の祖父もまたオーダーの会員であり、ヴィクターは彼らの活動に関する真実を長年探求してきた。彼はオーダーの歴史と、彼らが行う「賢者の石」と呼ばれる遺物の探求について語る。エヴリンとマーカスはやや疑いながら聞くが、ヴィクターの物語が彼らの調査結果と一致している点に惹きつけられる。ヴィクターが話す間、エヴリンは彼の腕に奇妙なタトゥーがあることに気づく。そのタトゥーは、彼女の祖父の手紙に描かれたシンボルと全く同じだった。
ジャックとサラはついに部屋への侵入方法を見つけるが、サラが誤って別の罠を起動させてしまい、洞窟崩落が発生。グループは狭い脱出トンネルを通り抜けざるを得なくなり、次の行動について議論が激化し緊張が高まる。エヴリンとヴィクターは発見したシンボルの解釈を巡って対立し、マーカスが仲介を試みる。ジャックはヴィクターの動機に対する疑いをますます強める。トンネルをようやく抜け出した彼らは、屋敷を取り囲む森の未知の領域にたどり着き、自分たちが監視されていることに気づく。
近くのホテルに戻った彼らは、侵入事件に驚かされる。侵入者は、ゾーイという名の熟練した泥棒で、ジャックに捕まる。取り調べ中、ゾーイは謎の依頼主から「永遠の炎の秩序」に関する文書を盗むよう依頼されたと明かす。エヴリンはゾーイをカフェで見た見知らぬ人物だと気づく。自由を条件に、ゾーイは彼らの組織に潜入する手助けを申し出る。チームは彼女を信頼するかどうか議論し、最終的に彼女のスキルが有用だと判断する。この決定はエヴリンとジャックの間に亀裂を生む。ジャックはこれが重大な誤りだと信じている。
チームの調査はFBIの不要な注目を引き寄せる。シモンズ捜査官が彼らに迫り、活動を中止するよう要求する。ジャックは、義務とエヴリンへの忠誠の間で揺れ動き、やむを得ずシモンズ側につく。エヴリンは裏切られたと感じるが、決意を固める。彼女、マーカス、ヴィクター、ゾーイは秘密裏に調査を続けることを決める一方、サラは自身の安全を心配し、一歩引いた立場を選ぶ。グループは分裂し、緊張は最高潮に達する。
エヴリンのチームは、ニューヨーク市にある廃墟となった錬金術研究所の情報を追跡する。彼らは研究所が荒らされ、有用な証拠が破壊されているのを発見する。エヴリンは、自分たちが手に負えない状況に陥っているかもしれないと気づき、自信を失い始める。ヴィクターは諦めることを提案するが、ゾーイは彼らに前進するよう励まし、実験室の破壊の中に隠されたメッセージを発見したと明かす。彼らが次の行動を議論している最中、マーカスにブラックウッド教授から緊急の電話がかかり、迫りくる危険を警告する。
チームは、ゾーイが用意した隠れ家に身を隠す。エヴェリンは、サラの安全とジャックの裏切りを心配し、自分の選択の結果に苦悩する。彼女は、自分の不安と祖父の遺産の重みをマーカスに打ち明ける。一方、ビクターとゾーイは隠されたメッセージの解読に取り組み、その協力関係にマーカスは疑念を抱く。エヴェリンは祖父について鮮明な夢を見、その謎について新たな見方を得て、調査をやり遂げる決意を新たにする。
マーカスが古い新聞を閲覧していた際、エヴリンの祖父が亡くなった週の訃報記事に隠された暗号化されたメッセージを発見する。エヴリンが暗号を解読すると、バークシャー地方の特定の場所の座標と、「炎の守護者」に関する謎めいた警告が明らかになる。チームはこれが賢者の石への手がかりになる可能性に気づきます。出発の準備を進める中、エヴリンは匿名で送られてきたテキストメッセージを受け取ります。そのメッセージには、縛られ口を塞がれたサラの写真と共に、「鍵」をバークシャーの場所へ持参するよう要求する内容が含まれていました。
バークスヒルズへ向かう途中、チームはジャックとシモンズ捜査官に阻止される。ジャックは彼らを逮捕する代わりに、FBI内部の「オーダー」に関連する陰謀を暴くため、潜入捜査を行っていたことを明かす。シモンズは実は現代の「オーダー」の高位メンバーであり、彼らはFBIを利用して「賢者の石」を探し出そうとしていた。グループは警戒しつつもジャックを歓迎し、シモンズを拘束したまま、オーダーに先んじてサラを救出し、石を見つけるためバークスヒルズへ急ぐ。
チームはバークスヒルズの拠点に到着する:遠隔地の山脈にある洞窟のネットワークだ。彼らは2つのグループに分かれ、エヴリン、マーカス、ジャックはサラを探し、ヴィクターとゾーイはストーンを探す。危険な洞窟を移動する中、彼らはオーダーのメンバーに追われる。エヴリンのグループは、古代の錬金術器具で満たされた部屋でサラを発見する。その部屋は、ヴィクターの死んだと思われていた父親であり、オーダーの真のリーダーである男によって守られていた。
ヴィクターとゾーイが戻ってくる。彼らは石の隠し場所を発見したが、取り戻すことができなかった。ヴィクターの忠誠心が試される中、彼は父親と対峙する。オーダーのリーダーは、賢者の石の真の目的を明かす——それは鉛を金に変えることではなく、宇宙の秘密を解き明かすことだ。彼はエヴリンにオーダーへの加入を提案し、彼女の知的好奇心に訴える。ジャック、サラ、マーカスはその提案に反対し、エヴリンにオーダーの破壊的な手法を思い出させる。緊張が高まる中、ゾーイは秘密裏にサラを解放するため行動する。
すべての視線が彼女に注がれる中、エヴリンは知識に伴う責任と、いかなる代償を払っても権力を追求する危険性について熱弁をふるう。彼女はオーダーの使命と祖父の警告を結びつけ、ついに彼の手紙の真の意味を理解する。彼女の言葉はヴィクターを動かし、彼は父親に反旗を翻す。目的を共有したチームは、ストーンを確保し洞窟から脱出するため、最後の突撃を仕掛ける。
混乱した戦闘が勃発し、チームはストーンを目指す一方でオーダーのメンバーを撃退しようとする。ジャックとゾーイは協力して攻撃者を食い止め、マーカスがサラを安全な場所へ誘導する。エヴリン、ヴィクター、そして彼の父親はストーンの部屋へ急ぐ。ヴィクターは父親と対峙し、エヴリンがストーンに到達するのを可能にする。彼女がそれを握ると、洞窟が崩れ始める。チームは命がけの脱出を遂げるが、ヴィクターは父親と残りのオーダーのメンバーを食い止めるため、自らを犠牲にする。
安全な屋外で、エヴリンは賢者の石を調べ、それが石ではなく古代のデータ保存装置であることに気づく。暗号解読のスキルと錬金術のテキストを駆使し、その内容を解読すると、高度な古代文明が残したメッセージが明らかになる。そのメッセージは、彼らの知識の濫用と、倫理的な科学の進歩の重要性について警告していた。エヴリンがこの発見をチームに伝えると、ヘリコプターの音が近づいてくる——ジャックの信頼する上司たち率いるFBIが、現場を確保するために到着した。
事件の後、エヴリンと彼女のチームはFBIと協力し、残るオーダーの細胞を解体する。サラはエヴリンと和解し、救出に感謝する。ブラックウッド教授は石からのメッセージの全容を解読する手助けをし、これにより様々な科学分野で新たな突破口が開かれる。ゾーイは協力の功績で免責を付与され、そのスキルを善用するためサイバーセキュリティ企業に加入する。チームはヴィクターの追悼式に出席し、彼の贖罪を認める。エヴリンは旅路を振り返り、祖父の真の遺産についての本を書くことを決意する。
エヴリンはケンブリッジでの生活に戻ったが、すべてが以前と違っていた。彼女はストーンの発見にインスパイアされた新たな学際的研究プロジェクトを率いるため、MITから名誉ある職位を打診された。ジャックが訪ねてきて、ロマンチックな関係の可能性をほのめかす。マーカスは大興奮で、古代文明に関連する今後の考古学発掘に関するニュースを共有する。エヴリンが今や整然としたオフィスを見回すと、以前見落としていた祖父からの手紙を発見し、まだ解き明かされていない家族の秘密が待ち受けていることを示唆する。
6ヶ月後、エヴリンの書籍はベストセラーとなり、彼女は不本意ながら公の人物としての新しい役割に慣れつつあった。サイン会において、彼女は祖母にそっくりな若い女性から声をかけられる。その女性はエヴリンに馴染みのある暗号化されたメッセージを手渡すと、群衆の中に消えていった。エヴリンは、彼女を支えるためにそこにいたマーカスとジャックと、意味深な目配せを交わします。メッセージの解読を始めると、彼女の目は新たな謎の興奮で輝き、今後の冒険の幕開けを告げます。