『綺麗に生まれた』 坂口 由美 (著)  形式: Kindle版

Case Study

「主婦のうつ病」

 

 三人目は、山下真由さん(仮名、35歳)の うつ病

●一九九六年六月

(1) 山下真由(仮名、35歳)は、一九九九年六月に「うつ病」と診断された。

二〇〇二年三月まで闘病生活を送った。

現在、2歳の娘の母親である。職業は、「元・研究者」である。

●家事

(2) 「今、思えば、引っ越しうつ病だったと思う。結婚して、知らない土地に来た。

友人もいない。家事と研究に明け暮れて忙しい日々だった。

いっしょうけんめいに慣れない家事をやった。そのハードルはものすごく高かったのだろうと思う。今まで、困難は努力すれば報われてきたから。

家事も努力すれば報われると思ってやってきた」。

「夫は、入社して一年目で、自分のことで精一杯だった。今までは、がんばれば結果を出せた。ところが、なぜ、うまくいかないのか、分からない。自分を責める気持ちになる。思い詰めるように家事をやった。

ある日、午前中、ベッドから起き上がれなくなった」。

医者から「うつ病」と診断された。

「なんだ病気だったんだ」と、ホッとした。病気なら治れば、また努力して結果を出せる。

●実家で

(3) 「実家に帰った。すると、寝たきりの状態になった。脳から身体の命令系統の全てが壊れた」。

「実家の住所すら思い出せない。

手が震えて字も書けない。頭がボーッとして何も考えられない。ただ寝ているだけになった」。

「突然、身体の中から激しい感情が噴き出してくる。赤ん坊のように泣いてわめく。感情にまかせてただ、泣くだけになった」。

●メモ

(4) 「枕元にメモ用紙だけは置いていた。今日、何をしたか、それだけでも書き止めようと思った。研究者の訓練のせいかな。

“トイレに行った”と一行しか書けない日もあった」。

●パソコンで

(5) 「起き上がれる日は、本を読んで、パソコンで検索して、病気のことを知ろうとした。今までの自分と全然、違う自分になったのは、なぜなんだ?と」。

●うつ病の正体

(6) 「私が知りたかったのは、生活レ ベルでうつを生きるとはどういうことなのか?しかも、主婦という立場でのうつとは?ということだった。それは、どこにも見つからなかった。だから、書かなければだめだと思った。自分は、確かにおかしいけれど どういう状態になっているか、一〇〇%、患者の立場で書く。

とても辛い作業だったけど、病気を客観的に突き放すことができたと思う。苦しいけど、正体を捕まえているから大丈夫と思えた」。

●三ヵ月

(7) 「うつ病」という診断から三ヵ月が過ぎた。「闘病記」を書き上げてネットの上に置いた。

「同じ経験をしている人がきっといるはずだ、と思った。絶対に、誰かいるはずだ、気持ちを分かってくれる仲間が、って。誰かとつながりたかった」。

●寂しさ

(8)

「主婦のうつ病の本質は、寂しさ、なのだと思う。とにかく社会とつながっていない。こんな自分は価値がない。

孤独だっていう寂しさ。寂しさが堂々めぐりをする。こんな寂しさがつづくなら消えてしまいたいって思う」。

「夫が、側にいないという寂しさではない。

ずっと側にいてほしいという寂しさではない。自分が生きていることに意味がない、社会の中で価値をもっていないという孤独感の寂しさだ。これが、主婦のうつ病の中核にあると思う。ふだんは、この観念の中をぐるぐる回っているけれども、たまに遠心力で外に出ると、自傷行為、自殺未遂をやってしまう」。

山下真由の手首にも傷跡がある。

 

●サイト

(9)

「うつ主婦のためのサイトを立ち上げた。

うつ主婦の仲間が、寂しさや孤独を癒してくれた。掲示板は救いだった。

お互い、行動レベルのことしか書けない(書きたくても書けない)けれど、“久しぶりに晴れたねえ。洗濯できなかったけど”だけで梅雨の晴れ間に洗濯できなかった自分なんか死んじゃえばいいという“孤独”が分かる。

だって、同じだから。そうやって繋がることで、一人じゃないって確認し合えてホッとするんです」

●自分を変えること

(10)

「うつから回復することとは、元に戻ることではなく、作り直すこと」と山下真由はいう。

「サイトに、簡単料理とか、手抜きのコツなど“生活の知恵コーナー”を作った。うつを生きるには、どういう思考がいるのか?を示したかったから。

料理一つでも、今までと違う解決の仕方を探すことで考え方を変えてほしいと思う。

このうつ病は、自分が変わらないと治らない。それは、自分を変えていくしかないものだから」。

山下真由は、「橘由歩」が取材した中で唯一のうつ病卒業者である。


ハーバード流交渉術

「カウンセリングの時代」の観点からみますと、ケーススタディの三人の女性の「うつの症状」は「自発的行動の低下」「早朝に目が覚める不眠」「覚醒が乏しくて睡眠状態におちいる」「記憶力が退化している」「血圧が極端に下がって朝、ベッドから起きれなくなっている」などによって「うつ病」と診断されます。これは、「セロトニン」の分泌の低下がもたらす症状です。

 

 しかし、「橘由歩」のルポをよく読むと、「自傷行為」や「イライラを夫にぶっつける」など、「うつ病」ではない病理もあらわしています。「自傷行為」は「ミュンヒハウゼン症候群」です。

 「分裂病」が「うつ病」をつくり出しています。では、どのように「うつ病」をつくり出しているのでしょうか?


1.「女の本質」をとり違えているという性格です。

ケーススタディの女性たちは、仕事、仕事で、「女の能力」の訓練を忘れているのです。

 「女でもない、男でもない」という中性型の性格をつくって、「女一般からの孤立」を不安に思っています。

ここがよくつかめていないところが、「成育歴と家庭環境がつくる性格」です。

 

●人間関係」は、「媒介」でかかわるという社会性の能力の解釈です。

ケーススタディの女性たちは、誰も家事ができないことで嘆いています。これは、「相手が喜ぶ」という橋渡しの媒介としての「食事づくり」を学んでいないことを意味しています。

 ということは、思いやり、親切、優しくする、などの能力を身につけていないという性格が「うつ」をつくり出していることになるのです。

●疲労するとアレルギーの世界に陥り、仕事も分からなくなる性格です。

ケーススタディの三人の女性は、仕事をしながら「主婦」もやる、というふうに生活しています。

 疲労が血流のショートカットをつくることは全く考えられていません。

 「運動が不足している」ことが、仕事に限界をつくってこれが「仕事の分からなさの不安」という性格のトラブルを生み出したと思われます。