第三帖 駒たちに会いにゆく ―― 動きと特徴を覚えましょう
盤の上で駒に道をひらいてあげる前に、まずはその子たちと、ひとりずつ顔見知りになりましょう。
将棋の駒は、八種類。それぞれに歩き方があり、それぞれに性格があります。ぜんぶを一度に覚えようとしなくて大丈夫。スタディ将棋なら、駒の表に描かれた矢印が、いつでもそっと動き方を教えてくれます。今日は、その矢印に小さな物語を添えるつもりで、読んでみてください。
前へ、ただ一マス。退がることはできません。数はいちばん多いのに、進めるのは一歩ずつ。最前線に立つ、けなげな兵たちです。
けれど侮ってはいけません。成ると「と金」になり、金と同じ動きを手に入れます。いちばん小さな駒が、いちばん頼もしい駒へ。前へ進む勇気が、この子をすっかり変えるのです。
駒にぶつかるまで、前へ何マスでも。けれど横にも、後ろにも、斜めにも動けません。盤の両端で静かに弓を引くように構える、一直線の駒です。
一度進めば引き返せないので、踏み出すときは少しだけ覚悟を。成ると「成香」、やはり金の動きになります。
前へ二マス、そこから左右どちらかへ一マス。鉤(かぎ)の形に、前方のふたつのマスへ跳ねます。
そしてこの子は、将棋でただひとり、ほかの駒を飛び越えられる駒。味方も相手も飛びこえて、思いがけない場所にふわりと舞い降ります。ただし、前へしか跳べず、後ろへは戻れません。成ると「成桂」、金の動きに。
前へ一マスと、斜め四方へ一マスずつ。合わせて五つの方向へ動けます。真横と、真後ろにだけは進めません。
斜めにすっと退がれるので、攻めても守っても軽やか。少し気まぐれにも見えるその足どりが、銀のいちばんの魅力です。成ると「成銀」、金と同じ動きに。
前・後ろ・左・右、そして前の斜めふたつ。合わせて六方向へ一マスずつ。後ろの斜めにだけは行けません。
派手さはないけれど、王様のいちばん近くで守る、いちばん信頼できる駒です。そして金は、裏返りません。最初から最後まで、金は金のまま。控えめで、揺るがない。
斜めに、ぶつかるまでどこまでも。盤をのびやかに横切る、二枚の大駒のひとつです。ただし縦横には動けないので、踏めるのは盤の半分のマスだけ。
成ると「竜馬(りゅうま)」――親しみをこめて「馬(うま)」とも呼ばれます。斜めの自由に、前後左右への一マスが加わって、隙のない駒に育ちます。
縦にも横にも、ぶつかるまでどこまでも。盤の上をいちばん広く動ける、最強の走り駒です。
成ると「竜王(りゅうおう)」――短く「竜(りゅう)」とも。縦横の力に斜め四方への一マスが加わり、盤上でいちばん恐ろしい駒になります。大切に、けれど大胆に使ってあげてください。
まわりの八方向へ、一マスずつ。動ける範囲は控えめでも、これがいちばん大切な一枚です。この駒が詰めば、勝負あり。盤の中心には、いつもこの子がいます。
ちなみに、上位の人が「王将」を、もう一方が「玉将」を持つのが、昔からの習わし。玉将もまた、裏を持たない駒です。
駒が相手の陣地(手前から数えて、相手側の三段目以内)へ進むと、多くの子は裏返って生まれ変わります。
おもしろいのは、歩も、香も、桂も、銀も、成るとみんな「金」と同じ動きになること。盤のいちばん下で出会った小さな駒たちが、前へ進む勇気とひきかえに、そろって頼もしい金の足どりを手に入れるのです。
裏を持たないのは、金と玉のふたつだけ。守りの要と、守られる君主。このふたりは、最初の姿のまま、最後まで盤の上に立ちつづけます。
―― 八種類の駒、それぞれの歩き方と、それぞれの性格。名前と顔がわかってきたら、いよいよ盤の上で、その子たちに道をひらいてあげましょう。