第二帖 歩を脱いで ―― 歩なし将棋にチャレンジ
前の帖で、ふたつの約束ごとを覚えました。駒が変身する「成り」、取った駒がわたしの味方になる「持ち駒」。
けれど、約束は覚えるだけでは身につきません。いちばんの近道は、実際に指してみること。そこで今日は、ルールを覚えたばかりのあなたにぴったりの、すこし変わった一局をご紹介します。その名も――「歩なし将棋」。
遊び方は、名前のとおりです。
いつもどおりに駒を並べたら、いちばん前の列にずらりと立つ「歩」を、双方とも九枚ずつ、盤からそっと外します。取り除くのは、合わせて十八枚。あとは、ふつうの将棋とまったく同じルールで指すだけです。
歩という、控えめな歩兵たちが消えるだけ。たったそれだけで、盤の景色は驚くほど変わります。
ふだんの将棋では、歩がずらりと壁を作って、お互いの陣地を隔てています。強い駒たちは、その壁の向こうへ道をひらくまで、しばらく出番を待たなければなりません。
けれど歩を脱いでしまえば、壁は消えます。
飛車も、角も、香車も、最初から伸びやかに盤を駆けられる。序盤の地ならしを飛ばして、すぐに駒と駒が出会えるのです。だからこの遊びには、こんな贈りものがあります。
ひとつ、すぐに戦いがはじまること。むずかしい序盤の手順を覚えなくても、いきなり盤の真ん中で勝負ができます。
ふたつ、一局が短いこと。決着が早いので、何度でも、何局でも。指すほどに、駒の動きが指先になじんでいきます。
みっつ、前の帖の約束を、たくさん試せること。駒がぶつかりやすいぶん、「取る」「成る」「打つ」の場面が次々におとずれます。覚えたばかりのふたつのルールを、これでもかと使えるのです。
おまけに、歩がいない世界では「二歩」や「打ち歩詰め」といった、歩にまつわる細かな決まりごとも、いっさい気にしなくて大丈夫。覚えることが、またひとつ減ります。
歩は、いちばん前で王様を守る、けなげな盾でもありました。その盾がない盤では、あなたの王様も、相手の王様も、いつもより少しだけ無防備です。
うっかりすると、あっという間に追いつめられてしまうかもしれません。でも、それでいいのです。
追われるからこそ、「王様の逃げ道」を考えるようになる。攻めと守り、その両方の感覚が、短い一局のなかにぎゅっと詰まっています。負けても、ちっとも惜しくありません。次の一局は、もう目の前にあるのですから。
並べて、十八枚を外して、指してみる。それだけで、あなたはもう将棋を「遊んで」います。
勝ち負けはあとからついてくるもの。まずは、駒たちが自由に駆けるその速さを、どうぞ楽しんでください。