永遠の少女のための将棋帖

永遠の少女のための将棋帖

― Japanese Chess for the Eternal Maiden

第七帖 まっすぐな銀 ―― はじめての攻め、棒銀

 

 


 

 

道をひらいて、お城を建てて。守りの支度がととのったら、こんどはいよいよ、攻めることを覚えましょう。

 

はじめての攻めの型は、「棒銀(ぼうぎん)」。名前のとおり、銀がまっすぐ、棒のように前へ歩いてゆく――将棋を覚えたすべての人が、一度はとおる道です。

棒銀って、どんな攻め?

思い出してください。あなたの飛車のまえには、飛車先の歩がいて、第四帖でその歩をひとつ伸ばしました。飛車は、前へ攻める支度がもうできています。

 

棒銀は、そこへもうひとり、銀を送りこむ作戦です。

 

お城づくりに使わなかったほうの銀を、飛車のいる筋へ向かって、一マスずつ、まっすぐ歩かせてゆく。歩と、銀と、飛車。三枚がおなじ一点をめざして、縦一列にならんだとき、相手の陣地のいちばん端に、突破口がひらきます。

 

複雑な駆け引きは、なにもいりません。まっすぐ歩いて、まっすぐ破る。それが棒銀です。

攻めは、数のたしざん

なぜ、三枚ならぶと破れるのでしょう。ここに、将棋の攻めのいちばん大切な秘密があります。

 

それは――攻めている駒の数が、守っている駒の数より多ければ、その一点は破れる、ということ。

 

たとえば、あなたがひとつのマスを二枚で攻め、相手が一枚で守っているなら。あなたの一枚めが取られても、二枚めが取り返して、そこに残ります。攻めとは、力くらべではなく、数のたしざんなのです。

 

棒銀は、この算数をいちばん素直なかたちにした攻め。飛車ひとりでは、守りの金銀にはね返されてしまう突破口も、銀がひとり加わるだけで、数がひっくり返ります。

銀は、身をささげる駒

ここで、棒銀のいちばん美しいところをお話しします。

 

まっすぐ歩いていった銀は、しばしば、相手の駒と刺しちがえて盤から消えます。銀を歩と交換するなんて、一見すると大損。けれど、その捨て身の一枚が守りの壁をこじあけて、うしろに控えた飛車が、ひらいた突破口からすべりこむ。そして敵陣で成った飛車は、あの竜王に生まれ変わるのでした。

 

一枚の銀をささげて、竜を迎える。第三帖で「身軽な足」とご紹介したあの銀に、こんな健気な役目があったこと、どうか覚えていてあげてください。

 

そして、思い出してください――取られた銀は、消えてなくなるわけではありません。いずれ相手の持ち駒として戻ってくるかわりに、あなたの手のなかにも、こじあけた壁の駒が残っている。持ち駒の魔法は、攻めのなかでこそ輝きます。

あせらずに、一マスずつ

棒銀のレッスンで、つまずきやすいところをひとつだけ。

 

銀は、いちどに走れません。一マスずつしか進めない駒ですから、突破口にたどりつくまで、数手かかります。その途中で、あら、あちらの駒がこちらを見ている――そんなときは、第五帖のあのひと呼吸を。支えのないマスには立ち止まらず、歩や飛車の見守る道を選んで歩かせてあげてください。

 

まっすぐとは、無防備ということではないのです。

お城と銀と、ふたつでひとつ

第六帖の囲いと、今日の棒銀。守りのお城と、まっすぐな攻め。このふたつがそろって、あなたの将棋は、はじめて「作戦」になりました。

 

王様はお城のなかに、銀は戦場へまっすぐに。それぞれの駒が、それぞれの持ち場で働く盤は、ながめているだけでも、うつくしいものです。

 

―― 次の帖では、追いつめた王様に贈る最後の一手――「詰み」のお話を。