その家は、八十年、いちども軋まなかった。
十二歳より前の記憶を持たない大学生・氷見野栞は、心霊研究者の招きで、丘の上の洋館〈雛守館〉に滞在することになる。視える女、館の相続人、そして栞。四人を迎えた館の子供部屋には、本物と寸分違わぬドールハウスがあった――なかに住む四体の人形の、四体目が着ているのは、今朝、栞が選んだ服だった。
書架に紛れた一冊の日記が、「魔女」と呼ばれた女主人の五十年を語り始めるとき、栞の胸に灯るのは恐怖ではなく、蜂蜜のようにあたたかい、帰郷の予感だった。
美しいものほど、その下は冷たい。ゴシックの古典に連なる幽霊屋敷譚を、昭和の洋館と少女の繊細な感受性で編み直した、幻想ホラー短編。
(400字詰め原稿用紙約36枚/約11,000字)
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